#9 恋が終わる季節〜オフコース『秋の気配』〜

アーティスト

こんにちは。今日からいよいよ9月。暑さは残っているものの、9月の声を聞くと気持ちは秋モードに装い替えしてしまうOJA-P(オジャピー)です。

そんな秋モード……真っ先に思い出してしまう曲は、オフコース!のその名も『秋の気配』。

皆さんもうすでにご存じかと思いますが、当ブログで取り上げるのは初めてになりますので、オフコースというグループを簡単に紹介いたします。

オフコースは小田和正さん、鈴木康博さん、地主道夫さんという横浜生まれ・横浜育ちの中学と高校の同級生3人が結成したフォークグループです。デビュー後に地主さんが脱退し2人組のデュオになります。また後に松尾一彦さん・清水仁さん・大間ジローさんが加入して5人組のバンドにパワーアップ、素晴らしいコーラスワークとロック色を強めたアレンジで『さよなら』『Yes-No』『言葉にできない』などのヒット曲を飛ばしたことは、当時を知る方にはご釈迦に説法ですね。

さて、この『秋の気配』はまだ小田さん・鈴木さんの2人で活動し、レコーディングに清水さん(ベース)・大間さん(ドラム)がバックミュージシャンとして参加していた時期になります。この曲、オフコースの楽曲人気投票をすると、かなりの頻度で第一位に輝くという、ファンにとってはとても評価の高い一曲です。

それでは、この曲が持つ人気の秘密に迫っていきましょう。

まず曲ですが、イントロにガットギターのナイロン弦の柔らかい響きが心地よく、なのに不穏な幕開けを予感させます。ギターのコードもメジャー7thや6thなど、浮遊感のあるお洒落なコードを充てていて、当時のフォークソングとしては洗練された雰囲気を醸し出しています。

思えば建築家を目指して大学の建築学科を選択した小田さん、ロボット工学を専攻した鈴木さんですから、こうした音楽理論はお手のものだったのではないでしょうか。そして、自分たちが演っている音楽自体、フォークソングというジャンルに囚われていなかったように思います。

全体をアコースティックギターとストリングスが支配した形で、ドラマティックになり過ぎない抑えたアレンジに仕上がっているところにもセンスの良さを感じます。

そして、問題の歌詞にまいりましょう。

あれがあなたの好きな場所
港が見下ろせる こだかい公園
(『秋の気配』オフコース)

横浜を訪れたことがある方はピンと来るのではないでしょうか。横浜で「港が見下ろせる」というと、「港の見える丘公園」がすぐに浮かびますね。小田さんの歌詞は普遍的・抽象的な描写が多く、そのことが多くの共感を呼ぶ理由にもなっているのですが、一方で具体性に欠ける、想像しづらいという意見もあります。ところがこの曲の詞は、とても具体的に書かれていて、登場する男女の舞台がありありと立ち上がってきます。小田さん本人の体験に基づいた実話ではないかと思ってしまいます。

そしてどうやら、あまりよろしくない雰囲気の二人。次のワードによって、別れのシーンであることが露わになります。

こんなことは今までなかった ぼくがあなたから離れていく
(同)

これはですね、ズバリ男のズルさを表現していますね(笑)。
自分の心が相手から離れていくことを、まるで自分の意思ではないような、言ってみれば責任を回避した言い方ではないかと思うのです。「あれ?おかしいな?僕の心が離れていくよ?僕は離れたくないのに!」みたいな言い訳ですね。

でも実際は彼女に対する愛が冷めた、或いは他に好きな人ができたと考える方が自然なはずですね。こんな言い回しも理系男子の小田さんらしい表現かもしれません。そしてこういう表現、他にもいたような……と考えていたら、見つかりました。そう、村上春樹さんの小説に登場する主人公・僕もいつもこんな感じでした。村上さんの主人公も割と他力的な思考が特徴ですよね。

個人的にはこの表現、女性からすると何それ!許せない!!となりそうなんですが、実際はこの曲人気投票でNo.1になるほどの好感度。
クールでシャイで頭脳も明晰、愛の言葉を紡ぎ生み出すメロディーも美しい……なのにあの澄んだヴォーカル、ときたら最早モテないわけはない。その冷たさすらかっこいい。そんな風に思わせる小田さんのスマッシュ・ヒット曲でした。

それにしても最後のサビの部分の、

ぼくのせいいっぱいのやさしさを あなたは受け止める筈もない
(同)

という表現があります。「ぼくのせいいっぱいのやさしさ」が、具体的にどんなことだったのか、詞を読む限り明らかになっていません。別れ際に握手しようとして拒否されたとか、「ごめん」と言って顔を背けられた……想像力が貧困でそのくらいしか思いつきません(笑)。

そして最後にタイトルの『秋の気配』。これも歌詞の中には特に秋を感じさせる描写は出てこないんですね。やはり別れの象徴的な季節としてしっくりくる秋をフューチャーした、もしくは小田さん自身の実体験として秋だった、そんな感じでしょうか。

個人的な話で恐縮ですが、私の妻は横浜育ちなのでこの風景はありありと浮かぶそうです。
一方、山の麓で育ったカントリーボーイの私はもう「港が見える」だけでお洒落だなー、とこの曲の目に見えない敷居の高さに、思わずたじろいでしまうのでした。

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コメント

  1. 村山涼一 より:

    オフコースの『秋の気配』は、小田和正にとって作詞の方法を変えた曲だったといえます。それまで小田さんの詞は、気持ちや心の動きを直接書く「心象描写」が多く、「具体的な情景が見えにくい」と周囲から指摘されていたそうです。

    そこで『秋の気配』では、意識的に情景を入れました。「ここも心象風景だな」と思う箇所があると、できるだけ具体的な景色に置き換えていった。つまり、心の中を説明するのではなく、景色を見せることで心を感じさせる書き方に変えたわけです。

    たとえば、港、公園、空、雲、風といった風景が前に出てきます。しかし、その景色自体が主題なのではありません。景色の変化を通じて、二人の関係が少しずつ終わりに向かっていることを感じさせています。

    だから『秋の気配』では、「恋が終わりそうだ」と直接説明しなくても伝わる。

    心象を語るのではなく、情景によって心象を立ち上げる。

    この転換が、その後の小田和正らしい歌詞表現につながっていったところが、とても興味深いです。

    • hobo hobo より:

      コメントありがとうございます。

      なるほど、それまで具体的な情景が見えにくい、という指摘があったんですね。
      確かにそれ以前のフォークソングにしても歌謡曲にしても、私小説的といいますか、ストーリーや舞台装置があって、関係性もわかる歌詞が多かったですものね。

      確かに小田さんの歌詞には、空、風、街などのワードがとても多いという印象ですが、そういった風景から心象を連想させたという戦略でしたか・・・見事な分析、とても納得です。

      そうしてもなお、具象化されているとはいい難い小田さんの詞世界、という印象がありますが、果たしてその意図は・・・と気になっています。
      シチュエーションを限定することによって共感が減ることを危惧している?
      もしかしたらあまり情緒的な性格ではないのかも?
      小田さんの歌詞における「愛」が抽象的で具現に欠けるのも、いつも引っかかっています。

      やはり理系脳の小田さんなので、歌詞も世界に先駆けて独自の「小田AI」を開発して書かせていたのでは、など
      思ってしまいました。

      またそんなお話もお会いした時にゆっくりできれば嬉しいです。

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